
「ここが、私たちの“全部”になるね」
この部屋を見たとき、妻がそう言った。
キッチン、ダイニング、リビング。
本来は“別々”に分けられるはずのそれらが
ここではゆるやかに繋がっていて、どこにいても互いの気配が感じられる。
朝、コーヒーを淹れるのは夫の係。

キッチンからダイニングへふたつのマグがそっと運ばれてくる。
妻はソファで毛布にくるまりながら窓の向こうの光を見ている。
特別な会話はない。ただ同じ空間にいるだけで安心する。

お昼は手を抜いた焼きそばを丸テーブルで分けあって、
夜には、届いたばかりのベビーカーの話をしながらソファに並んで映画を見る。
テーブルの上には、仕事のメモ、産婦人科の予約表、観葉植物の霧吹き。
1人掛けソファの上には、たたみかけた洗濯物
ラグには、妻の足、そして夫のスニーカー。
リビングとダイニングとキッチンの区別はもう曖昧になっている。
でも、それがいい。

“整ってるけど、きっちりしすぎていない”
“選びぬかれてるけど、無理してない”
この空間はふたりの今の暮らしにぴったりと寄り添ってくれる。
間取りでは測れない「広さ」や「快適さ」がここにはある。

何帖かよりも、どれだけ笑えたか。
何人掛けかよりも、どれだけ近づけたか。
それがスケールレスな住まい。
これから家族が増えてもこの“ゆるやかさ”はきっと変わらない。
変わるのは家具の配置と暮らしのリズム。
でも、この空間に流れる空気だけはずっと変わらない。
