ふと緩む時間 | albo(アルボ)

ふと緩む時間

ドアが開いた瞬間、あのときと同じ香りがふわりと流れ込んできた。

前回は少し緊張した様子だったお客様が

今日は自然と視線を巡らせながら、まっすぐに椅子へ向かっていく。

「前と同じ席に座っちゃいました」

そう言って少し笑うその声に、

この空間がちゃんと“記憶”になっていたことを感じて、胸の奥があたたかくなる。

お気に入りの椅子に腰かけて

オットマンに足をのせて

バッグを隣に置く

その仕草に迷いがない。

たった2回目。

けれど、お客様にとっては

「いつもの場所」が、もうできはじめている。

今日の飲みものをお聞きすると、

「また前と同じので」

それは、会話というより関係の始まりを確かめる合図のようだった。

ブークレの質感、

間接照明の柔らかさ、

静かな音楽と、揺れるカーテン。

何も変わっていないけれど、

“再び訪れた人にだけ見える空気”がある。

私はこの場所を、「ただの待合室」にはしたくなかった。

施術が始まる前に、ふっと力を抜ける場所。

今日一日の疲れを、少しだけ先に癒しておける場所。

だから、こうして再びこの椅子を選んでもらえたことが、

私にとっては何よりの評価なのだと思う。

「お待たせしました」

名前を呼ぶその声に、お客様が顔を上げて微笑んだ。

今日はもう、最初から“ほどけていた”。

この待合室は、“緊張を脱がせる空間”を目指して設計しました。

使っている素材はどれも、感触が柔らかく、視線がとまらない色味のもの。

椅子やオットマンはブークレ調の布で、手を添えたときにふわりと沈む感覚があるものを選びました。

硬すぎず、柔らかすぎず、でも“安心して体をあずけられる”存在。

床と壁には、木のニュアンスを取り入れています。

それは、どんな人の暮らしにもなじみのある「記憶の素材」だから。

木の色は主張しすぎず、でもあたたかさをしっかり残すトーンに。

そして照明は、時間によって表情を変える間接光を中心に構成し、

日中の“ほぐれ感”と、夕方以降の“とろみある静けさ”を演出しています。

全体として目指したのは、

「なにかを飾る場所」ではなく、「なにかを下ろせる場所」。

この空間に一歩入ったとき、

お客様がすでに深呼吸していることに気づいていただけたら、

私たちの設計は成功です。

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