Reward/リワード[Lounge chair]

その朝は目覚ましより少し早く目が覚めた。

大事な日だった。

資料の確認。持ち物のチェック。服のシワ。

気になることが次々に浮かんで落ち着いていられなかった。

いつもならコーヒーを淹れてあの椅子に腰をおろすのに

今日はその余裕がなかった。

ラウンジチェアは、窓辺で静かに佇んでいた。

何も言わないけれど「座っていけば？」と問いかけているようで

目をそらすように私はそのまま玄関へ向かった。

靴を履きながら、

ペーパーコードのしなやかな座面と

オークの木肌のやさしい感触をふと思い出す。

けれど、立ち止まる時間はない。

「ただいま」はきっと今夜だ。

今は、ただ行くしかない。

扉を開ける前

リビングをひと振りだけ振り返った。

朝の光の中で椅子は静かにそこにあった。

何もしていないのに、

背中を押された気がした。