鶯が鳴きはじめた朝。
季節の進み方をカレンダーより先に風が教えてくれる。
田舎に暮らしてから、そんな瞬間が増えた。
今日は、産院の帰り道に寄った直売所で
ふきと椎茸とたまごを買って帰ってきた。
家の周りは、田んぼと畑と、ぽつぽつした家。
郵便屋さんも顔を覚えてくれて、
「おめでとうございます」と声をかけてくれた。
昼下がり、ふたりでゆっくり昼ごはん。
オークの無垢材のテーブルに、素朴なおかずを並べる。

まわりに置いた椅子たちは、カールハンセン。
Yチェア、CH36、CH37
どれも都会にいた頃から少しずつ集めてきた、憧れの椅子たち。
でも、不思議なことに
いちばんしっくりきたのは、田舎のこの平屋に置いたときだった。
自然の光で木目がよく見える。

風が通るたびに、ペーパーコードがふわりと揺れる。
静かな空間に、椅子のかたちが浮かぶ。

椅子たちはどれもバラバラなのに、
ここでは喧嘩しない。
それどころか、まるでこの土地のリズムに溶けているように感じる。
「子どもが生まれたら、どの椅子に座らせようか」
「うーん、たぶんこの子が選ぶ気がする」
そんな会話が、風に乗って部屋の中をまわる。
この家にテレビはないけれど、
窓の外には、草がそよぎ、雲が流れ、鳥が通る。
それを眺めながら座る椅子があれば、それで十分。
“家具を暮らしに合わせる”んじゃなくて、
“暮らしが自然に家具と呼吸を合わせていく”。
この椅子たちが教えてくれたことだ。
お腹の中にいるその子に、
この風の音と椅子の木の匂いが、伝わっているといいなと思う。
