静けさごと設計されたカフェ | albo(アルボ)

静けさごと設計されたカフェ

誘ってくれたのは、昔からの友人。

職場も住む場所も変わったけど

たまにこうして会って話す時間は、今も変わらず大切だった。

削り出された石のテーブル、ラタンの灯り、土の色の壁。

ソファ席についた瞬間、ふたりとも自然と声がひそまる。

大きな声じゃなくても、ちゃんと届くから。

「なんか、いいね。音がしないのに、安心する感じ」

「うん。なんか、呼吸が合う感じ」

コーヒーを片手に話すことは近況とか、

最近観た映画とか、ほとんどはどうでもいいこと。

でもたまに、ふと沈黙が訪れても、

気まずくならないのは長く付き合ってきた証かもしれない。

それと、この空間の力だと思う。

天井の梁を抜けて落ちてくる、やわらかい光。

石のテーブルの温度。

街路樹が風にゆれる音。

ここでは、言葉以外のものがちゃんと会話になる。

そしてそれが、とても心地いい。

「なんか、ここに来たこと、忘れたくないかも」

「うん、次また会うときも、ここにしよう」

店を出るころには

ふたりともあまり荷物が軽くなったような顔をしていた。

話したことより、話さなくてよかったこと。

それをちゃんと包んでくれた、やさしい時間。

静けさごと設計されたこの店で、

わたしたちは“わかりあえる余白”を、静かに共有していた。

この店の設計において、

最初に決めたことは「音を主役にしない」こと。

静けさをつくるというと、防音材や吸音設計などの物理的な話に思われがちですが、

この店で目指したのは“気配をそっと受け止める空間”です。

壁や天井には、ラフな左官仕上げの土壁と、無垢材の梁を選びました。

反射を最小限に抑え、音がやわらかく散っていくように。

床は柔らかすぎず、でも足音がとどまらない素材を。

テーブルには削り出しの天然石。

触れた瞬間に、日常の温度から一段下がるような「静寂の質感」を持たせています。

あえて音を“吸い込む”のではなく、音が“歩いて消えていく”ように設計しています。

席数は少なく、距離感はあえて広く。

視線を交差させない角度で配置し、

人の存在が“背景として優しく見える”ように構成しました。

座る人が「ここにいることが、邪魔にならない」と思える場所をつくる。

それが空間の役割です。

照明も、すべてが直接照らすのではなく、

ラタンのシェードからこぼれる、「編み目の影」までも設計要素としています。

人の動きをじゃましない、でもその気配をゆるやかに映し出す。

光と影が、言葉よりやさしく空気を調整してくれます。

この空間にはBGMを入れていません。

でも、それを「足りない」と思わせないために、

窓の外の揺れる葉音、カップを置く音、服の擦れる音が心地よく聞こえる構造にしています。

“沈黙が、沈黙でなくなる”空間です。

「どうつくるか」よりも、「何を引き算するか」

静けさは、足し算では生まれない。

本当に必要なものだけを、そっと残していく。

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