迎える準備は、木のぬくもりと石の静けさとともに | albo(アルボ)

迎える準備は、木のぬくもりと石の静けさとともに

ここに住んでいるのは30代後半の女性。

広告制作会社に勤めた後、30歳で独立。

今はフリーランスでブランドディレクターをしている。

都会で働き、都会に暮らしているけれど、

心のどこかで“都市のノイズに溶けすぎないように”と、バランスを取ることを大切にしている。

この部屋を選んだのは、窓の向こうに広がる街の景色がガラス越しに眺めるアートのように見えたから。

インテリアはナチュラルで構成されているけれど、

その奥には明確な意図がある。

大理石のテーブルは、強さと静けさを両立する軸。

脚元にリズムのある木材を選んだのは、無機質になりすぎないようにするため。

椅子は4脚すべて同じデザイン。

その理由は「暮らしの中で“整えること”に、無理をしすぎたくないから」。

この空間には余計なものがない。

けれど、無味ではない。

ダイニングの真ん中には季節の枝物。

その横に置かれたカメラと開かれた写真集は、

仕事と趣味の境界線が限りなく曖昧な彼女のライフスタイルを象徴している。

午前中は静かに光が入り

午後になると影が少しずつ濃くなって

夜には照明の柔らかな球体が空間全体に静けさを与える。

この部屋では誰かと食事をすることもあるし、

一人でワインを飲みながらノートを広げることもある。

でもどちらの時間も「自分を取り戻す」ための大事な時間として設計されている。

暮らしに派手なイベントはいらない。

ただ、“自分で選び取ったもの”だけに囲まれたとき、

日々の小さな呼吸までが愛おしくなる。

この部屋はそんなふうにして、

都市の喧騒の中に浮かぶ「静かな島」みたいに存在している。

今日はひさしぶりに誰かがこの部屋に来る。

料理もワインもあらかじめ決めていたけれど

それ以上に気を遣ったのは、空気の濃度だった。

仕事仲間であり、少しだけ距離の近い存在でもあるゲスト。

相手に合わせすぎてもこの空間は本質を見失う。

かといって“素”だけで迎えるにはまだ親しさが足りない。

椅子は4脚あるけれど、座るのはふたり。

対面ではなく、ななめ向かいにセットした。

それが一番、“会話の余白”が自然に生まれる距離だから。

テーブルの真ん中には枝物。

先日見つけた花屋で「まっすぐで、でも無理してない枝をください」と頼んだら、

不思議そうな顔をしながらも、店員がこの一本を選んでくれた。

この部屋で誰かを迎えるのはたまにしかないこと。

だけど、誰かが来てくれることを想定して椅子は4脚にしてある。

「また来たいと思える空間って物じゃないよね。空気とか、距離感とか。」

それを大切にしたくて、この部屋はどこにも主張しすぎないトーンで仕上げている。

ドアのチャイムが鳴る。

「いらっしゃい」

そう言った自分の声が、いつもより少しやわらかく聞こえた。

わたしの暮らしに、今日は誰かの色が混ざる。

それは特別なことじゃなくて、この部屋がずっと準備してきたことだった。

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