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Column / コラム

家具は家族より長生きする?

家具は、ただ部屋を整える道具ではありません。毎日の暮らしを支えながら、気づけば家族の歴史を静かに刻み続けています。人が年齢を重ねるように、家具もまた時を経て姿を変えていきます。けれど、その時間のスピードは人よりもゆっくりで、時に家族の記憶を超えて、さらに未来の誰かに受け継がれることさえあります。

「家具は家族より長生きするかもしれない」。この問いを思い浮かべたとき、私はいくつもの光景を思い出しました。

オーク材のダイニングテーブルの角に残る、子どもがぶつかった跡。ソファの端に擦れてできた色あせ。毎日の生活でついた痕跡は、どれも消したくなる「傷」かもしれません。けれど、10年後に振り返れば「あの頃はよく走り回っていたよね」と笑いながら語れる物語になります。

家具は、人間の肌や心と違って、少しの傷で壊れたりしません。むしろその傷が、唯一無二の表情を加えていきます。無垢材のテーブルは磨けば艶を取り戻し、革のソファは色が深まり、布の椅子は使い込むほど体に馴染んでいきます。人の記憶が柔らかく熟していくように、家具もまた「育つ」のです。

子どもが小さな頃は食べこぼしでテーブルが汚れ、宿題のノートが広がり、休日には家族でボードゲームを楽しむ場所になる。やがて子どもが巣立ち、夫婦二人だけの食卓に戻ると、そのテーブルは落ち着きと静けさをまといます。

一つの家具が、ライフステージに合わせて役割を変えていくのです。家族構成が変わっても、その場にあり続ける家具は、まるで「家族の一員」のよう。けれど人と違うのは、家具は老いて衰えていくのではなく、年を重ねるごとに価値を増していくことです。

祖父母の家に行くと、何十年も前からそこにあるちゃぶ台。少し軋む音さえ懐かしく、安心感に包まれます。祖父母がいなくなっても、その家具に触れると一緒に過ごした時間が蘇る。家具は「人の不在」を埋め合わせるように、記憶を守り続けてくれるのです。

特に天然木の家具や職人が手仕事で仕上げた家具は、適切に手入れをすれば半世紀以上も使えます。家族の誰かが亡くなっても、家具はそこにあり、静かに見守り続ける。そう考えると、家具は人よりも長生きする存在だと言えるのではないでしょうか。

人は30年、50年と生きる中で成長し、老い、変化します。一方で家具は、同じ年月を経ても「古びる」だけではありません。木は乾燥と湿気を繰り返しながら強さを増し、革は色を深め、布は柔らかさを帯びます。その変化のスピードはとても緩やかで、まるで時間を別の尺度で生きているかのようです。私たちが人生の節目を駆け抜けていく間、家具は淡々とその場にあり続け、静かに記録を積み重ねていきます。

ある日、実家から譲り受けたテーブルに座ったとき、ふと両親と同じ景色を見ていることに気づきます。そこにあるシミや跡は、若い頃の両親が過ごした証。家具は言葉を持たないけれど、確かに「歴史」を伝えてくれる存在です。そして今度は自分が親となり、子どもがその家具の上で新しい記憶を刻んでいく。家具は世代をまたぎながら、人から人へ「暮らしのバトン」をつないでいくのです。

大量生産・大量消費の時代において、家具を「使い捨てるもの」と考える人も少なくありません。けれど、家族よりも長く生きる家具があることを思えば、選ぶ瞬間からその家具は未来の誰かに受け継がれていく可能性を秘めています。だからこそ、家具を買うときには「今の暮らしに合うか」だけでなく「未来に残したいか」を考えてみるといいのかもしれません。

家具は人のように言葉を話したり、動き回ったりはしません。けれど、確かに「時間」を生き、そこに集う人の思い出を守り続けます。家族が成長し、変化し、ときに離れ離れになっても、家具は黙ってその場にあり続ける。家具は家族よりも長生きするかもしれません。そしてその長さこそが、家具の魅力であり、価値なのだと思います。「この家具と、どんな時間を重ねていきたいか」。そう考えることが、日々の暮らしを少し豊かに、未来を少しやさしくしてくれるのではないでしょうか。

「家族が去っても、家具は記憶を守り続ける。」

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