ヒロシマチェア
広島から世界へ、日常を照らす名作家具

1.広島から世界へ ─ 名作誕生の背景
2.デザインの特徴 ─ 控えめな美しさ
3.職人技 ─ 受け継がれた広島の木工
4.世界が認めた「日本の椅子」
5.暮らしの中のヒロシマチェア
6.デザイナー・深澤直人について
7.広島とalbo ─ 思い出を刻む場所として
8.まとめ
広島から世界へ ─ 名作誕生の背景
2008年、イタリア・ミラノで開かれた世界最大の家具見本市「ミラノサローネ」で一脚の椅子が注目を集めました。
その名は「ヒロシマチェア」。デザインを手掛けたのは、日本を代表するプロダクトデザイナー・深澤直人。そして製作を担ったのは、広島に本拠を構える老舗家具メーカー「マルニ木工」です。
マルニ木工は1928年創業。戦前から木工技術を磨き、戦後は「成形合板」を日本に広めた先駆者として知られています。大量生産ではなく、職人の手仕事を大切にしながら、新しい技術と美しいデザインを融合させる──その姿勢が「ヒロシマチェア」という名作を生み出す土壌となりました。
深澤直人は、±0(プラスマイナスゼロ)の家電や無印良品のデザイン監修などを手掛けた人物で、「シンプルだけれど、なぜか心に残るもの」を追求するデザイナーです。彼がマルニ木工に求めたのは「世界に通じる日本の椅子」。華美ではなく、誰が見ても、誰が触れても、自然に受け入れられる普遍的なデザイン。その思想が、広島の職人たちの技術と融合した結果、ヒロシマチェアは誕生しました。

デザインの特徴 ─ 控えめな美しさ
ヒロシマチェアを前にすると、まず感じるのは「静けさ」です。
派手な装飾も、強い主張もありません。それなのに、視線を吸い寄せられる。
アームから脚にかけて流れるような曲線は、木をただ削るだけでは生まれません。職人が何度も削り直し、磨き上げ、手のひらで確かめながら完成させたラインです。実際に触れてみると驚くほど滑らかで、角という角が消えている。小さな子どもが手を滑らせても安心できるようなやさしい感触があります。
また、座面や背もたれは必要以上に厚くせず、軽やかに仕上げられています。長時間座っても疲れにくいよう角度が計算されており、木の椅子でありながら「硬さ」を感じさせません。この緻密なバランスが、多くの人に「長く使いたい」と思わせる理由のひとつです。

職人技 ─ 受け継がれた広島の木工
ヒロシマチェアが「世界に通用する」と言われるのは、その形だけではありません。背後にあるのは、広島が誇る木工技術です。
マルニ木工の工場では、今も多くの工程が職人の手で行われています。木目を一枚ずつ確認し、適材適所に配置。乾燥の度合いを見極め、わずかな狂いも許さない精度で組み立てる。さらに、最後の磨き込みに至るまで、数十年の経験を積んだ職人が丁寧に仕上げています。
特にヒロシマチェアのアームは、一本の無垢材を削り出し、なめらかな曲線を出す工程に高い技術を要します。一般的には難しいこの加工を量産レベルで可能にしているのは、広島の家具産業が積み重ねてきた歴史とノウハウの賜物です。

世界が認めた「日本の椅子」
ヒロシマチェアは、発売以来、世界中の建築家やデザイナーに選ばれてきました。
ミラノサローネでの高評価を皮切りに、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の展示でも注目を集め、国際的なホテルやレストランでも導入されています。
「控えめでありながら存在感がある」
「使う人や空間を引き立てる」
──これは、日本の美意識「侘び・寂び」とも通じる考え方です。華やかさではなく、静けさと余白の美を重んじる。その精神が世界で評価されたと言えるでしょう。
暮らしの中のヒロシマチェア
名作家具というと「美術館に飾られるもの」というイメージを持つかもしれません。
しかし、ヒロシマチェアの本質は「暮らしに溶け込むこと」にあります。
朝、窓から差し込む光に木目が浮かび上がる。
昼、家族が食卓を囲み、子どもが小さな足をぶらぶらさせながら座る。
夜、仕事から帰ってきた夫婦が、温かい食事を分かち合う。
どの時間にも、椅子はただ静かにそこにあり、人の営みを受け止めています。年月を重ねれば重ねるほど、座面の色は深まり、アームには家族の手の跡が刻まれる。それは「傷」ではなく「記憶」。椅子と共に過ごした日々の証なのです。

デザイナー・深澤直人について
深澤直人は1956年生まれ。日本を代表するプロダクトデザイナーで、日常生活の中に自然に溶け込み、しかし心を豊かにしてくれるプロダクトを数多く生み出してきました。
彼の哲学は「Without Thought(考えずとも自然に受け入れられるデザイン)」。つまり、特別な理由がなくても、人が思わず手を伸ばしたくなる形や質感をつくり出すことです。
無印良品の家電、INFOBARなどの携帯電話、±0の生活雑貨──いずれも「シンプルでありながら不思議と愛着がわく」デザインで知られています。ヒロシマチェアもまた、この思想の延長線上にある作品だと言えるでしょう。

広島とalbo ─ 思い出を刻む場所として
alboは「家具は人生の1ページを残す器である」という考えを大切にしています。
その視点で見ると、ヒロシマチェアはまさに象徴的な存在です。
広島という同じ地から生まれ、世界で愛されながらも、最終的には一人ひとりの暮らしに寄り添う。日常の当たり前の時間を、少しだけ豊かに、少しだけ特別にしてくれる。
家具は主役ではなく、暮らしの背景。けれど、その背景があるからこそ、人生の思い出は鮮やかに残るのだと思います。
まとめ
ヒロシマチェアは、単なる「名作家具」ではありません。
それは、広島の職人技とデザインの融合が生んだ、日本の精神を体現する椅子。
そして、未来にわたって人々の暮らしを支え、思い出を刻み続ける存在です。
広島で生まれたalboが、この椅子を紹介することには特別な意味があります。
それは「地元の誇り」を伝えることでもあり、「思い出を大切にする家具」という価値観を共有することでもあります。
日常の一瞬一瞬が、未来の記憶になるように。
ヒロシマチェアは、これからも世界中の暮らしに寄り添い続けるでしょう。
画像引用元:マルニ木工 公式サイト – Maruni

