
夕方の光は、朝よりも柔らかくて、少しだけあたたかい。
カーテンを閉めるにはまだ早く、照明をつけるには少し惜しい時間。
そんな“あいまいな光”が、この部屋にはよく似合う。

石の天板には、すこし黄味がかった陽が斜めに落ちていて、
その上に置いたマグカップの影だけが、音もなく伸びていく。
ペンダントライトの真鍮がわずかに反射して、
天井に淡い金の輪郭をつくっていた。
椅子の背にもたれながら、
一度冷めたコーヒーを温め直そうか迷っているうちに、
ただ“この時間の質感”を味わっていたくなった。
テーブルに触れれば、すこし冷たい石。
足元に触れるのは、織りの厚いラグ。
背中に沿う布張りの椅子は、今日も変わらず静かに包んでくれる。

誰かと話したわけでも、
何かを考え込んでいたわけでもない。
けれどこの部屋にいると、
触れるすべての質感が、自分の気持ちを少しだけ整えてくれる。
夜が来るまで、あと少し。
カップを持ち直すと、
その感触さえ、記憶に残ってしまいそうなほど、丁寧だった。