ときどき思い出すあのお客様 | albo(アルボ)

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家具と暮らしの物語がそっと並ぶ場所

Column / コラム

ときどき思い出すあのお客様

家具の仕事をしていると、忘れられないお客様との出会いがいくつもあります。
けれど、その中でも今もふとした瞬間によみがえる光景があります。それは、僕がまだ販売員だった頃、ひと組のご夫婦にご案内したときのことです。

その日は平日の午後で、店内は静かでした。入口のドアからゆっくりと歩いてきたのは、30代のご夫婦。奥さまはお腹が大きく、旦那さんはその歩幅に合わせるように少し前かがみで歩いていました。
「こんにちは」と声をかけると、二人とも少し照れたように笑って、「テーブルを探していて」と奥さま。

聞けば、新居に引っ越すタイミングで、家族が増える前に“長く使えるもの”を選びたい、と。
予算やデザインの話もしたけれど、すぐにわかったのは「この二人は家具そのものより“これから始まる暮らし”を真剣に描こうとしているんだ」ということでした。

僕はオーク材のダイニングテーブルをおすすめしました。
触った瞬間に“木の呼吸”みたいなものが伝わってくる、柔らかい手触りの無垢材。角は丸く、脚は細身だけどしっかりしていて、どんな時間もそっと受けとめてくれるような佇まい。

奥さまは手をすりすりと天板の上で滑らせながら、「これなら、子どもが大きくなっても、ずっとここでごはんを食べられそう」と言いました。
旦那さんは横で、「傷がつくのもまた思い出になるよね」と笑っていました。

その瞬間、目の前の家具が単なる“商品”から“未来の記憶の器”に変わった気がしました。

その後、椅子の高さや色、床との相性まで丁寧に話し合いながら、ゆっくり時間をかけて二人で選びました。
最終的に選んだのは、少し大きめの180cmのテーブル。
「ちょっと大きいかな?」と奥さまは迷っていましたが、旦那さんが言った言葉が忘れられません。

「いつか子どもが友達を連れてきて、ここに座りきれないくらいになったら、それはそれで嬉しいじゃん。」

その言葉に、奥さまは深く頷いていました。
家具選びって、こういう未来の会話を生むんだな、と胸が熱くなったのを覚えています。

納品の日もよく覚えています。
玄関に入ると、まだ新しい木の香りが残る家の中で、奥さまが「本当に楽しみにしていました」と迎えてくれました。
設置が終わり、旦那さんがテーブルを見て「家っぽくなったね」と呟いたとき、奥さまは少し涙ぐんでいたようにみえました

させる家具が人を感動瞬間なんて、そうあるものじゃない。
でも、その奥さまを見たとき、僕は初めて“家具の仕事って、人の人生の節目に触れているんだ”と実感しました。

あれから数年が経って、今もたまにそのご夫婦のことを思い出します。
子どもは元気に育っているだろうか。
あのテーブルにはどんな傷が増えたんだろうか。
家族で過ごす時間は、あのとき二人が想像した以上に温かいものになっているだろうか。


美味しい料理を囲む日も、ケンカして沈黙が落ちる日も、子どもが初めて自分でごはんをこぼした日も、ぜんぶ受け止めてくれる存在。

あのご夫婦は、僕にそれを気づかせてくれたお客様のひと組です。

今、僕はalboというブランドを立ち上げて、あの頃とは違う立場で家具に向き合っています。
だけど、“家具が人生の1ページをつくる”という信念は、あの日に受け取ったものそのままです。

僕が大切にしたいのは、買ってもらうことではなく、
「その家具が、どんな時間をつくってくれるのか」
その物語に寄り添うこと。

お客様の暮らしに、ほんの少しでも温度を添えられるなら、それで十分。
あの日のご夫婦との出会いが、今の僕を形づくっていると言っても大げさではありません。

家具は人生の節目にいつもそっといる。
その当たり前のようで、実はかけがえのない事実を、これからもalboとして伝えていきたいと思います。

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